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オイルポンプのスタッド交換

オイルポンプをとめているスタッドボルトを1本ナメてしまいました。実はこのスタッド、ビートル購入当初から怪しい感触があって、しっかり締め込むのを躊躇していた部分でした。オイルポンプ付近からは若干のオイル漏れはあるものの、それほど気にならなかったので放置していたわけです。それが先日、オイル交換をした際にエンジンを下から覗いていたところ、オイルの漏れ方が以前よりもひどくなっていることに気がつきました。念のためナットの締まり具合をチェックしようと思ったら、ほとんど力を入れない状態で、ニュルんといってしまいました。スタッドの溝がナメたのなら良かったんだけど、ナットを時計方向に回すとスタッドが出てきてしまうというあり得ない状態。エンジンケース側の溝がダメになったのは明らかでした。

スタッドに留めを刺したのは家から10分くらい離れたところで、その日はそのまま走って帰ってきました。もともと3本でとまっていたようなものだし急激に悪化することはないだろうと。ところが翌日明るくなってから駐車場に行ってみると、自分の駐車スペース近辺にオイルが垂れたような跡が… 試しにエンジンを掛けると、ポンプ付近からダバダバとオイルが吹き出してきました。あれれ… エンジンを止めてオイルレベルを見るとディップスティックにちょこっと付く程度。改めて見回すと、前日走って来た道には延々と黒いオイルの線が続いていたのです。スタッドを完全にナメた時、オイル漏れを食い止めていたギリギリのバランスを崩してしまったのでしょう。

幸いと言うか自宅の駐車場には戻っていたわけで立ち往生は免れましたが、逆に駐車場から出られなくなってしまいました。オイルを足しながらなら走ることも可能かも知れませんが、これ以上公道にオイルを垂れ流すわけにはいかないので、そのまま駐車場で作業を行うことを決めたのでした。

修復の方法としては考えたのは3種類

1-固まると金属のような強度が出るというパテで穴を埋めて、タップでネジ山を切り直す

ケースの穴を広げなくて済むのは嬉しいが、そのパテがどのくらいの強度を発揮してくれるのか怪しい。また穴を埋めてしまうとタップを正確に立てられるかどうかも分からない

2-タップで今よりも太いネジ山を切って太いスタッドに打ち替える

値段的には一番安くあがりそう。ただ、オイルポンプのスタッドが刺さっているあたりはケースの肉厚があまりないので、太いタップを立てていいものか疑問。またオイルポンプは6mm仕様なので、エンジンケース側を太くしても、突き出た部分は6mmになっているステップ・スタッドを作る必要がある

3-スレッド修正工具を使い、これまでの6mmのスタッドを使う

一番順当な方法らしい。もっともこの方法にしても結局スタッドの穴は大きくなるので、問題は残る

情報を集めてみると、どうやら1は論外。肉厚の問題もそれほど神経質になる必要はないようなので、順当といわれている3の方法で行くことに決めました。


道具調達

スレッドの修正はヘリサート加工とよく言われてるけど、ヘリサートというのは実は商品名でした。つまり「ヘリサート加工」は「クリネックスで鼻をかむ」と同じことみたい。本物のヘリサートは一式揃えると1万円位になるらしいけど、売ってるところを見つけられなかった。ちょうど仕事のついでに寄った工具屋のストレートに、同様の機能を果たすリコイルというのがあったので、そいつを手に入れました。ちなみにヘリサートはアメリカ製でリコイルはオーストラリア製です。というわけで僕がやろうとしているのは「リコイル加工」ということになるのでしょう。

recoilkit 6mm用のリコイルキット(4800円)です。ストレートのおじさんが、詳しい使い方説明が書かれたA4カラーのパンフレットを付けてくれました。俺、港北のおじさんなんとなく好きなんだよね。関係ない話だけど… 作業はまず6.3mmのドリルで下穴を開けるところから始まるけど、ドリルのビットは付いてなかったので別に購入しました。下穴を開けたら付属のタップで溝を切り、くの字をした棒でコイルを入れ、最後にコイルに付いているガイドの爪を折るというもの。初めて使う物なので一体どんな按配なのかアルミ板でテストしてみたところ、作業自体はそんなに難しくなかった。ただ下穴を正確に開けるのが難しい。ここで失敗すると全てがおじゃんです。

oilpump puller もうひとつ今回の作業のために必要だったのがオイルポンプ・プラー。先っぽのT字のツメをオイルが通る入り口と出口の通路に差し込んで引き抜く特殊工具です。T字部分の長さは約52mmで、少し位置がズレると片方のツメが通路から外れてしまう微妙な長さです。片側が抜けた状態だとポンプを斜めに引っ張ることになるのでとってもよろしくない。あと5mmでも長ければいいと思うんだけど、あるいは真っ直ぐにセットしないと引っ張れないようにわざとT字部分を短めに作ってあるんだろうか…


オイルポンプを外す

oilpump  comming out プラーをセットして、いよいよポンプを外します。「固くて外れにくい場合にはオイルポンプの下にあるクランクケースの合わせナットを気持ち程度緩めると作業が楽になる」という話なので、最初からナットを緩めて作業しちゃいました。オイルポンプを挟んでいるテンションを和らげればいいだけなので、あくまで気持ち程度緩めるのがポイントとのこと。そのためか、プラーのナットを締めていくとオイルポンプはポコンと外れました。

oilpump is out oilpumpベントリーやヘインズには「オイルポンプには液体ガスケットは使うな」となっていますが、オイルポンプ周りには黒いのが大量についていました。僕のエンジンはオイル交換の時にゴム状の黒い謎の物体が出てくることがあったんですが、正体はこの液体ガスケットでした。オイルに混じってエンジンの中を回ってしまうのはあまりよろしくないので、こういうことにならないように液体ガスケットは使うなとなっているのかも知れません。

stripped bolt stripped case-hole左がナメてしまったスタッド。先っぽの1-2巻きくらいに金属を噛んでいた跡がある以外は、パテか接着剤のようなものがついてるだけで、すでにナメていたスタッドだったことが判明しました。どうりでフニャフニャしてたわけだ。ケースの穴も綺麗に仕上がっていて、こうして見ていくと、液体ガスケットを使ってオイルが滲まないエンジンを仕上げたのではなくて、エンジンを組む時点でスタッドをナメてしまい、その対策として液体ガスケットを使ったんじゃないか、とも勘繰ってしまいます。


リコイル加工

あとはスタッドの穴にドリルで下穴の準備をして、タップを立てればいいのですが、実はそう簡単にはいかない事態が発生していました。というのは、エンジンが乗ったままだと、オイルポンプからリアエプロンまでのクリアランスが20cmちょっとしかなくて、ドリルを入れるスペースがないのです。90度に曲がっているコーナードリルだと頭が90mmくらいなので何とかなるんですが、充電式だと定価で4-5万と手が出ない。しかもドリルを使うのはせいぜい2〜3cm程度なので、そのために5万円もするドリルを買うのはちょっと現実的じゃない。エンジンを下に落とせば通常のドリルも使えるようにはなるのですが、何しろ狭い駐車場での作業なので、エンジンを落とすのは厳しいものがありました。でも、本当の事を言うと、エンジンを降ろすのがめんどくさいという気持ちがあったのも確かです。

recoilのタップ切り結局6.3mmのドリルで下穴を開ける工程を一つ省き、ケースに直接リコイル用のタップを立てることにしました。もともと6mmの穴は開いているんだし、ケースはそんなに固い材質でできているわけじゃないから、と…
テープを巻いて深く入り過ぎないようにしてからタップを立てていくと、これが、思ったよりも簡単にスレッドが切れていきます。ここで気を良くしたのがいけなかったのか、タップの角度には気をつけていたはずなのに、終盤になって角度が少し下に傾いていることに気がついたのです。斜めのまま最後まで切ったところで、スタッドが斜めに刺さっていては結局使えないので、最後の数周はタップの角度を修正して切っていきました。

スタッドゆるゆる さてどうなるか、リコイルを挿入してみました。練習の時には若干のフリクションがあったんですが、感触が明らかに違います。リコイルはがたがただし、スタッド入れてみてもぐらぐら。試しにスタッドを引っ張ってみたらリコイルが着いたまま抜けてしまいました。おお、何ということだ… 楕円形の大きなネジ穴を開けただけということで、完全に失敗です。というか、タップが斜めになった時点で大失敗だったのですが…

あ〜ぁ、茫然自失です。駐車場に寝っ転がってしばらく雲を眺めていました。


修復作業

recoil tap size6mmリコイルのスレッドを修正するのはその上の8mmのリコイルを使えばいいのだろうか?6mm用リコイルのタップを計ってみると直径は7.4mm。単純に計算すると、8mmリコイル用のタップだと10mm近くになりそうです。さすがにこれだとオイルポンプ付近のケースにクラックが入るんじゃないか心配です。ここは通常の8mmタップを立てて8mm×6mmのステップ・スタッドを立てることにしました。もっとも7.4mmのタップが斜めに切ってあるので、8mmのタップがきちんと使えるのかどうか際どいところではありました。

8mmbolt stepstud作成 stepstud とりあえず8mm×6mmのステップ・スタッドを先に作りました。材料は8mmのユニクロ・ボルト。真ん中にスレッドがない部分が残るように切断し、ダイスで6mmのスレッドを切りました。ダイスの使い方が下手なのかダイスの質が悪いのか、6mmのスレッドはギザギザでひどい仕上がりです。

8mm-pumpの穴の位置オイル・ポンプのカバーを外して分かったことですが、僕のエンジンについていたオイル・ポンプは6mmではなくて8mm仕様でした。だったら、ステップ・スタッドなんてまどろっこしいものを作らなくても、8mmのスタッドを立ててカバーの穴を広げればそれで良いではないか、とも考えたのですが、そう簡単にはいきませんでした。というのは、オイルポンプの穴の位置が6mm用と8mm用では違っていて、8mm用の方が穴が外側についているのです。そのため、6mmのスタッドの穴を単純に8mmに大きくしただけではスタッドがポンプに当たってしまうのです(写真で3本のスタッドが穴の内側に寄っているのが分かるでしょうか)。6mmのスタッドは細いので、穴の位置がズレていても8mm仕様のオイルポンプを付けることができるわけです。恐らくVWがオイルポンプのスタッドを8mmに変更した時、エンジンケースの肉厚が薄くなるのを嫌って、スタッドの位置を外側にずらしたんじゃないかと思います。

2本のstepstud というわけで、当初ステップ・スタッドの真ん中の部分は8mmの太さのまま残すつもりでしたが、細く修正する必要がありました。ネジ山の仕上がりに納得がいかなかったのでもう1本作ってみましたが、結局同じようなのが出来てしまいました。締め付けテストをしたらトルクには耐えそうなので、不本意ながらこのまま組み込むことにしました。


なんとか修復完了

修復後のオイルポンプ 修復後のエンジン下 で、はしょって修復完了の写真です 。8mmのタップを切る時は緊張しました。これで失敗したら、もう後がないのですから。ユニクロボルトを買いに行ったときに10mmのナイロン・ロックナットがあったので、そいつを付けてみました。何度まで耐えるナットだか確認していないので、そのうち溶けちゃうかもです。作業終了後しばらくエンジンを回しましたが、オイル漏れはしてないようです。

ところで、ベントリー・ブルー、ヘインズ(1192cc)共にオイルポンプの締め付けトルクは2mkgと記載されています(→ ベントリーの表記ヘインズの表記)。同じ6mmスタッド(10mmナット)のオイルストレーナーが0.7mkgなのでおかしいと思ってたんですが、どうやらこれは8mmスタッド用の締め付けトルクなようです。10mmナットを2mkgで締め付けたらえらいこっちゃでしょう。

オイル残量ほとんどなし 今回のトラブルはオイル交換直後に発生しました。作業終了後にはオイルを交換したので(とは言ってもほとんど残ってなかったので交換と呼べるのか疑問ですが…)、走行距離はたったの55km。とんでもなく贅沢なオイル交換になってしまいました。

作業前にオイル残量をチェックした時、ディップスティックについたオイルはこの程度。最後に捨てたオイルの量から推測するに、半分以上のオイルをぶちまけたみたいです。ただ、これくらいまで減っていても走行中にオイルの警告灯は点きませんでした。ということは、オイルの警告灯が点くということは、とんでもないくらいオイルが減っているということになるんでしょう。

カバーの傷ところで、オイルポンプのカバーの裏側には、ギアが付けた傷が4ツついていました。前回の作業でカバーの面取りをはしょって90度ずらして付けたんですね。カバーが減っているとギアの遊びが増えてしまうので、ちゃんと面取りするようにマニュアルには書いてあるのですが…


反省点

リコイルのタップを立てる時にもっと慎重になっていれば、こんな大騒動にならずに済んでいました。ただタップを垂直に立てるのは難しい作業なので、やはりエンジンは降ろして作業すべきだったようです。ついでに言うと、エンジンが降りていれば、作業工程を省略する必要もなかったわけですから。

ナットの増し締めをしなければスタッドに留めを刺すこともなかったでしょうが、あのまま放っておいたらどうなっていたんだろう。最終的にオイル漏れがひどくなって、旅先で一気にオイルが垂れ流しになったかも知れません。自宅の近くで問題が起きてくれたのは実にラッキーでした。オイルポンプのスタッドはもともと問題があることが分かっていながら放置してきたわけで、放ったらかしにしていると、こういうことになるんだと改めて勉強になりました。


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